岩手県沿岸の廃校に誕生したBMXパラダイス「三陸BMXスタジアム」

三陸BMXスタジアム

創案から5年の月日を経て、ついに動き出した岩手県大船渡市の本格的BMXレースコース・室内パークの併設施設。この、夢のような施設は一体どんな場所で、どのようにして生まれたのか。現地に伺いライディングしつつ、スタッフのみなさんに話を聞いてきました。オープンに至るまでのドラマが壮大すぎて、ちょっと長めの記事になりますが、ぜひお付き合いください。(取材日:2020年8月29日)

レースコース・パーク・宿泊施設が一つの場所に。まさに日本版ウッドワード

BMXでレースコースを楽しむ子どもたち
BMXでレースコースを楽しむ子どもたち Photo Naoki Gaman

その名は「三陸BMXスタジアム」。岩手県大船渡市三陸町越喜来(おきらい)の、廃校となった甫嶺(ほれい)小学校の跡地です。
校庭とその周辺の土地を利用して造られた本格的なレースコースは、既に運用がスタートし、体育館ではパーク制作中、そして校舎を宿泊施設にする工事も進行しています。
全て完成すれば、まさに日本版ウッドワードと言っても良いくらいのBMXパラダイスです。

東北自動車道沿線からは若干距離があるものの、アクセスしやすい立地

岩手県の県庁所在地は内陸の盛岡市。大船渡市は太平洋側の三陸海岸ということで、盛岡から三陸BMXスタジアムまでは約130kmほどの距離があります。遠くて行くのが大変そうなイメージを持ってしまいますが、東日本大震災後に整備された釜石自動車道、三陸道を利用することで、以前よりも容易に沿岸にアクセスできるようになっているため、思いの外スムーズです。

三陸道をひた走り、三陸ICで降りて約5km、三陸鉄道リアス線の甫嶺駅にもほど近い住宅地の中に位置する三陸BMXスタジアム。入り口にはのぼりが立ち並び、校舎、そして校庭のコースも道路から見えるので、迷うことはないでしょう。

入り口には目立つのぼりがあるので迷わず到着できる Photo Naoki Gaman

コンビニ、スーパーはIC付近にしか無いので、水分補給の飲み物だけは買い忘れないように気をつけましょう。昼ごはんはキャンプ気分でアウトドアクッキングやBBQなどをされる方も多いようです。夏は本当に暑いので、車のクーラーで涼みつつ、ドライブがてらお弁当を買いに行くライダーもチラホラいました。

5メートルスタートヒルを有する、東北では久しぶりとなる公認コース「BMX CIRCUIT BRIDGE CLAW」

地元企業とのネーミングライツ契約により「BMX CIRCUIT BRIDGE CLAW(ビーエムエックスサーキット ブリッジクロー)」という名称がつけられた三陸BMXスタジアムのBMXレースコース。

公式戦も行える規模の本格的コースとなっており、5メートルのスタートヒルは圧巻です。現在はアマチュアセクションのみ完成していますが、プロセクションも造成中。今でも充分楽しいコースですが、全て完成すればアマチュアからプロまでが楽しめる素晴らしい場所になること間違いなしです。

5mのスタートヒル。子ども達も少しずつチャレンジしている。 Photo Naoki Gaman

コースはこのスタートヒルから始まり、3つのバーム、様々なジャンプ、リズムセクションなどで構成されています。子どもも大人も一緒になって、ひたすらパンプ。ジャンプやリズムセクションでは、ベタなめ、ロール、ジャンプと思い思いのこなし方で楽しめます。スピード感と開放感が気持ち良く、やみつきになってしまいそう。

子どもも大人も楽しめるレースコース。親子で楽しんでいる方も多い。 Photo Naoki Gaman

ご存じの方も多いと思いますが、同じ岩手県の北部に位置する九戸村にも、1988~89年の「ふるさと創生1億円事業」により造られたBMXレースコースとトレイル、パーク、温泉、宿泊が揃った素晴らしい複合施設「コロポックルランド」が存在しました。

コロポックルランドBMXレースコース(2011年撮影) Photo Naoki Gaman

コロポックルランドのBMXレースコースは当時、東北初の公認コースとして造られ、こけら落としイベントでは全日本選手権も行われたほどの本格的なものでした。しかしながら、ローカルライダー不在という問題が長年解消できず、利用者の減少に伴いコースコンディションも悪化。コースの難易度も上昇傾向にある昨今では、公式戦を行うことができる公認コースとしては数えられていない状況です。

よってこの大船渡のコースは、東北では久しぶりの本格的BMXレースコースとなります。講師が常駐し、クラブチームも発足しているということで、ローカルライダーが育ち、きっと地域に根づいてくれることでしょう。期待が膨らみます。

コロポックルランドBMXパーク(2011年撮影) Photo Naoki Gaman

少し話がずれますが、レースコース同様、国内屈指のサイズを誇り、各地のライダーに愛されたコロポックルランドのBMXパークは、利用者の減少と老朽化により、惜しまれながら2019年はじめに閉鎖となってしまいました。
修繕や移設を目指し、近県のライダー達が村の担当者の方に交渉するなどしたものの進展せず、閉鎖されたパークにはセクションが残されたまま日々劣化の一途を辿っています。
荒れてしまっていたレースコースとダートジャンプトレイルだけは、2年ほど前に関東から青森県南部に帰省したライダーにより再度Digされはじめ、少しずつ復活しているので、詳細はまた近いうちに別の記事でお伝えしたいと思います。

体育館パークはレジェンドパークビルダー「キノウチさん」が制作中。間違いなしのクオリティ

大船渡に話を戻し、次は体育館パークのご紹介です。今年春から着手されたという体育館を利用した室内パークは、なんとあの「キノウチさん」が制作しています。

パークビルダー キノウチさん Photo Naoki Gaman

キノウチさんは北千住にある現ムラサキパークの前身である「キノウチパーク」と、併設されていた「キノウチサイクル」のオーナーをされていた超レジェンドライダーで、現在はパークビルダーとして活躍されています。
ムラサキパークのセクションはもちろん、BBC(BASHI BURGER CHANCE)や様々なイベントの特設パークも手掛けられており、キノウチさんの作るアールは極上と皆が口をそろえる最高クオリティ。

美しいアールの数々は見ているだけでうっとりします Photo Naoki Gaman

そんなキノウチさんを迎えて進められている体育館パークプロジェクト。レースだけではなくフリースタイルライディングも得意とするスタッフの桑野孝則(タカ)くんが、セクションの種類や配置を考え、それをベストな状態で実現するべく、キノウチさんが持てる技術を余すところなく使い制作しているという、なんとも豪華なパークです。

パーク全景 Photo Naoki Gaman

体育館内には味のある校歌の額などがまだ残されていて、なんとも言えないノスタルジックな雰囲気とBMXのコラボレーションが楽しみでもあります。

味のある額縁とスピードウォール。ハイエアーが画になりそう。 Photo Naoki Gaman

この日は8割がた完成していたランプに”初乗り”許可をもらった地元のキッズ達が、初めての”アール”に戸惑いつつ楽しんでいました。パークではスケートボードもOKとなるようで、お父さんもスケートボードでチャレンジしていましたよ。ここで乗り続けたらヤバいライダーになりそう…。完成が楽しみです!

初乗りのチャンスをゲットした地元キッズとそれを見つめるキノウチさん Photo Naoki Gaman

そもそも何でここにBMXコース?若手ライダー2名が関東から大船渡に移住するに至った経緯とは。

三陸BMXスタジアムを運営する「合同会社TXF(TOHOKU EXTREME FACTORY)」は、大船渡市で地域おこしなどの活動をされている、「株式会社地域活性化総合研究所(地活研)」が2019年4月に設立した会社です。
スタッフは東京出身で企画担当の福山北斗(ホクト)くんと、埼玉出身BMXプロライダーの桑野孝則(タカ)くん。2人ともこのために大船渡に移住して来たという本気っぷり。

福山北斗くん(左)と桑野孝則くん(右) Photo Naoki Gaman

きっかけは、前出の「地活研」に寄せられた、廃校活用の相談だったそうです。東日本大地震での被災は免れたものの、少子高齢化の影響もあり、近隣の被災し新築となった小学校と統合し廃校となった甫嶺小学校。

思い出深い校舎を有効活用し、後世に残したいという地域の方の思いに応えるべく、地活研の社員のみなさんが調査、検討を重ねた結果、オリンピック種目にもなっているほど国際的なメジャースポーツという面もありながら東北に本格的なレースコースが無いということ、スポーツとして、遊びとして、自己表現として…、様々な楽しみ方があり、幅広い年代層が楽しめること、などの理由から、BMXに白羽の矢が立ったとのこと。

BMXライダー目線で考えるとBMXにそれだけの魅力があるのは間違いありませんが、大船渡市も地活研さんも、元々BMXと縁があった訳ではないにも関わらず、数々の魅力的なスポーツやアクティビティの中からBMXを選んでいただけたことに感謝ですね。(そしてナイスチョイス!!)

そしてなんと、地活研でその計画に携わっていたのが、後にTXFの社長となる北斗くんのお父さんだったのです。
元々東京でNTTの社員をされていたというお父さんは、青森出身で東北が故郷ということもあり、東日本大震災直後から大船渡で復興のために尽力されており、地活研が設立された際に転職。その後は大船渡をベースに活躍されていたそうです。
(ちなみに地活研の代表は大船渡出身の演歌歌手・タレントの新沼謙治さん!)

BMXコースを作る計画があるんだけど手伝ってくれないか?とお父さんから相談を受けた北斗くんは、BMXをやったことがないのにも関わらず何かを感じたようで、手伝うことを決意し、なんと翌日に、ラグビーをするために通っていた大学に退学届を出したそうです。なんという行動力でしょう。

秩父滝沢サイクルパークBMXコースでの修行とタカくんとの出会い、そして大船渡への移住

その後の彼の努力はすさまじく、まずは秩父のレースコースで2年間スタッフとして働きながら運営について学ぶ修行の日々を送ります。そしてその秩父で出会ったBMXプロライダーのタカくんを誘い、ふたりで大船渡に移住。

まだ本当に事業化するかわからない状態で、不安を感じることもあったようですが、レースコースで働き、自身もレースに出場するなどBMXにのめり込んで行くにつれ、人生をかける価値があると感じるようになったそうです。

数年前までBMX初心者だったとは思えない北斗くんのライディング Photo Naoki Gaman

昨年12月から約1ヶ月半に渡って行われていたクラウドファンディングサイトに、響く言葉が残されていました。

まだ大船渡で本当に事業化されるかどうかも分からない状態での修行だったので、自分自身正直とても不安で一杯でした。

「自分の将来をかけて良いのか?」と迷いもしました。しかし、秩父滝沢サイクルパークの方々、お客様であるライダーの方々が温かく迎え入れてくれました。

何より小学生ライダー達は超初心者の自分の師匠として、一生懸命教えてくれすぐに仲良しになりました。

レースに出たときには、場内の沢山の方々が自分を応援してくれました。

そして気づいてみるとBMXの事が大好きになっていました。

競技というよりもその空間がとても心地良かったのです。

この「気持ちのいい空間」を東北に作ることは、自分の人生をかける意義があると強く思うようになりました。

福山北斗

廃校を活用して日本初の本格的BMXコースとパークの併設施設を作りたい!/ CAMPFIRE
三陸BMXスタジアム
タカくんに引っ張られて初めてのラストジャンプに挑戦。そしてメイク! Photo Naoki Gaman

「保育園ランバイクキャラバン」をはじめとする活動が身を結び、合同会社TXF設立

そこからはタカくんとルームシェアをしながら、事業計画を立てたり、地域の方への説明会を開いたりと大忙し。北斗くんは様々な企画を練り、タカくんはそのライディングスキルと人当たりの良さを活かしランバイク教室の講師やショーを担当するなど、二人三脚で、様々なチャレンジをしたそうです。

タカくんはさすがのスタイリッシュなライディング Photo Naoki Gaman

「BMXで地域を盛り上げる」をテーマに、駐車場などの広い場所を借りて「ゴールドラッシュ」と名付けたランバイクレースを毎月開催したり、「保育園ランバイクキャラバン」と銘打って大船渡市近隣の幼稚園・保育園全てを訪問し、認知度アップと未来のBMXライダー発掘のためのランバイク教室を行ったり。

そこで出会った子どもたちが何人もランバイクを始め、今はBMXライダーになってコースに通っており、BMXのことを知っている人がほとんどいなかった大船渡三陸町で、クラブチーム「STREET MONSTER」の会員数は50人弱にまで増加。

三陸BMXスタジアム
コースにはたくさんのキッズが。皆のヘルメットにはふたりのサインも。 Photo Naoki Gaman

これは本当に素晴らしいアイディアで、地元にパークやレースコースが欲しいけどなかなかできない、署名活動などをしても進展しない、などという悩みを持つ多くのライダーの参考にもなるのではないでしょうか。

レンタルバイクで楽しむ女の子ライダーも多数。 Photo Naoki Gaman

そしてその頑張りが認められ、2019年4月に合同会社TXF設立。ランバイクの大会などを運営しつつ準備を進め、ついにレースコースの造成が昨年2019年の9月頃から始まりました。

2020年5月9日、ついにプレオープン。正式オープンまであと少し!

そしてアマチュアセクションが概ね完成した2020年5月9日にプレオープン。体育館パークの造成も始まり、創案から約5年、北斗くんとタカくんの努力が実を結び、三陸BMXスタジアムはついに動き出しました。

三陸BMXスタジアム
雨が降ったらシートをかけます。ライダー、保護者で協力し合ってあっという間です。 Photo Naoki Gaman

新型コロナウィルスの影響により、クラブチーム「STREET MONSTER」の会員限定でのオープンとなりましたが、その後ほどなくして岩手県在住者、5月30日からは東北6県在住者へと段階的に規制が緩和され、10月10日、体育館パークのオープンと共についに正式オープン!10月10日・11日には「第1回東北エクストリームフェス」が開催されます。

国内の有力選手を招待しBMXレーシングショー及びパークでのBMX・スケートボードショーを開催。来場者へのワークショップもあり、会場内では大船渡市内飲食店による「ベアレンビールミニ祭り」まで!
レーサーでなくても楽しめるので、海を見渡せる気持ちの良いロケーションでBMXの魅力を満喫してみるのはいかがでしょうか。

また、それに先駆け今週末の9月27日には、「第1回STREET MONSTER杯」が開催されます。こちらの参加資格はクラブチーム「STREET MONSTER」会員とその家族および関係者のみとなっており、一般参加はできませんが、81BMXの取材レポートをお楽しみに!

三陸の海はすぐそこ。波の音も聞こえます。 Photo Naoki Gaman

三陸BMXスタジアム
岩手県大船渡市三陸町越喜来字甫嶺134-2

営業日:水曜日~日曜日 10:00~17:00
休業日:月曜日・火曜日
※祝祭日が重なった場合は営業日とし代休日が設定される場合があります。

コース走行料 
BMX    2,000円(税込) 
ランバイク  1,500円(税込)

レンタル料金 (バイク&ヘルメット&プロテクタ)
BMX    1,000円(税込)2時間
ランバイク  500円(税込)2時間

※新型コロナウイルスの影響で、9/23現在では東北六県の在住者の方のみ使用可能。10月10日より正式オープン。
※現在、プロセクション、校舎の宿泊施設が工事中。

記載の情報は2020/9/23時点のものになります。状況により変更となる場合もありますので、株式会社TXFの公式サイトもご確認ください。
http://txf.life/